株式会社ミッド東京ホールディングス

獣医師採用

veterinarianRECRUIT

MENU

NEWS

専門家レポート【腫瘍科】心タンポナーデを伴う左心耳原発大動脈小体腫瘍に対して外科的切除を適応した犬の一例

更新日:2025.08.14

私たち小滝橋動物病院グループでは、一般診療に加えて各専門科のチームが連携し、より高度な獣医療の提供に努めています。近年は、他院からのご紹介やセカンドオピニオンとしてのご来院も増えており、現場で得た知見や経験は、貴重な学びの機会となっています。これらを広く還元するべく、私たちは定期的に獣医療従事者の皆さまに向けた情報発信を行っております。

小滝橋動物病院グループ Case Report
News Letter vol.3

特集:
心タンポナーデを伴う
左心耳原発大動脈小体腫瘍に対して
外科的切除を適応した犬の一例




心タンポナーデを伴う左心耳原発大動脈小体腫瘍に対して
外科的切除を適応した犬の一例


■症例


犬種 トイ・プードル
性別 避妊雌
年齢 13歳3ヶ月

救急病院にて心嚢水貯留による心タンポナーデと診断を受け、心嚢水抜去などの救命処置を入院下で実施されており、退院後治療のセカンドオピニオンを目的に当院を受診した。



■臨床経過


当院初診時


来院2日前に救急病院にて心嚢水抜去を行った影響で、呼吸状態は安定していたが、心嚢水が胸郭中に滲出している状態であった。胸部単純X線検査および心臓超音波検査を実施したところ、明らかな心臓の腫瘤性病変は確認されなかったが、心膜ラインの不整が確認された。この時点では、心臓あるいは心膜腫瘍の腫瘍性疾患を疑い、CT撮影および症状緩和を目的とした心膜切除を検討していた。


来院から数日後


一般状態悪化により来院。心臓超音波検査を実施したところ、心嚢水貯留による心タンポナーデの再発が確認された(図1)。貯留液の抜去(約100mlの血様漿液)を行い、その後呼吸状態は安定した。貯留液の沈渣を塗抹し、細胞診検査を行なったが腫瘍細胞を確認することはできなかった。


このままでは繰り返し心タンポナーデを引き起こすリスクが高いと判断し、CT検査および心膜切除術を実施した。CT検査では左心耳領域の肥厚が疑われた。実際に開胸下心膜切除後に観察すると、左心耳は腫大し、色調の変化や辺縁不整を呈していた(図2)。肉眼上、腫瘍病変は左心耳に限局していた為、左心耳を結紮・離断し、摘出を行った。摘出後の組織の割面をスタンプし、細胞診検査を行ったところ、淡く好塩基性に染まる広い細胞質と円形核を有する細胞が多量に確認され、悪性所見も散見されることから、悪性の神経内分泌系腫瘍を第一に疑った(図3)。


術後、胸腔内ドレーンから少量の漿液が排出されたものの、排液量は徐々に減少し、数日でドレーン抜去/退院へと至った(図4)。摘出した左心耳の病理組織学的検査では悪性傾向を示す化学受容体腫瘍(ケモデクトーマ)と診断され、中でも大動脈小体腫瘍が疑われた。


術後アジュバント化学療法として、週3回のトセラニブリン酸塩(パラディア®)の経口投与を実施している。切除して74日後の時点では明らかな胸水貯留及び再発/転移所見は認められず、飼い主からは高い満足感が得られている。


図1 心臓超音波検
心嚢水抜去前
心嚢水抜去後

図2 左心耳 肉眼像

図3 左心耳 細胞診検査

■考察


大動脈小体腫瘍の多くは、増殖速度が緩慢であり、中〜長期の予後が期待できる点や、その発生部位の解剖学的な特徴から、全ての症例が直ちに治療介入すべきというわけではない。偶発的に発見された場合や、無徴候の場合は無治療経過観察となるケースもある。一方、積極的な治療介入が必要な場合は、放射線療法/化学療法の三点が治療の主軸となる。


放射線療法の中でも、近年は進行性の大動脈小体腫瘍に対して定位放射線治療が選択肢の一つである。ある報告では、肺炎などの有害事象が認められる場合もあるが、約400日程度の生存期間中央値が示されている。しかしながら定位放射線治療を受けられる施設は国内でも数箇所程度しかなく、まだまだ治療機会は限られている。


外科療法として、症状の緩和を目的とした心膜切除(切開)を行うことはあるが、原発巣の切除が適応となるケースは少ない。本症例は大動脈/肺動脈基部ではなく、左心耳に限局して発生していた為、原発巣の切除が適応となった稀な症例と言えるだろう。


化学療法に関して、一部の報告ではトセラニブリン酸塩によって治療された大動脈小体腫瘍症例の生存期間中央値は、400〜800日前後とされている。今回は発生部位が典型的ではなく、外科療法と組み合わせていることからも、同様の挙動を取るかどうか、再発や転移を注意深くモニタリングする必要があると考えられる。


図4 手術前後 単純X線胸部DV像
左図 手術前
右図 手術後


高度画像診断機器
〜CT・MRI〜


・ 迅速に検査・診断・治療が可能
・ 画像診断医が在籍


当院では『動物たちと共に価値と喜び』を理念に獣医療が人の医療に近づけることを使命として診療を行ってまいりました。高度な獣医療の提供のため、CTやMRIというような高度画像診断機器を備えております。CTは高度な軟部外科の手術を行う目白通り高度医療センター、MRIは神経・整形に関する手術を行う新目白通り高度医療センターに設置されています。グループ内にこれらの画像診断機器が設置されていることで、迅速に検査・診断・治療にあたることができます。そのため、場合によっては担当医が必要と判断した場合、診察当日に検査することも可能となります。加えて当院に多数の画像診断医が在籍しているため、わずかな異常所見も見逃さずに診断することが可能です。腫瘍科診療に関してはもちろん、これらの検査に関するご質問がありましたらお気軽にご相談ください。


CT 画像診断装置

MRI 画像診断装置


脾臓腫瘍のCT画像


主に血液検査、超音波検査、X線検査、CT検査で診断しますが、CT検査は悪性腫瘍の転移の有無や程度を評価するのに有用です。



脳腫瘍のMRI画像


脳脊髄検査などの検査も行いますが、確定診断のためにはMRI検査が有用であり、腫瘍の発生部位などを特定することができます。



肺原発性腫瘍の一例


X腺検査や生検だけでなく、腫瘍の発生部位の特定・浸潤の程度の把握、他臓器への転移を確認するためにCT撮影検査を行いました。




腫瘍科紹介


医療の発展により、犬と猫の寿命は長くなっています。そのため人と同様に、動物においてもがんが増えており、現在では犬猫ともに死因の第一位といわれています。大切な家族との幸せな時間をより長く過ごすため、迅速かつ的確な診断と、患者様それぞれの状態やご家族様の考え方に合わせた治療を選択していく必要があります。
小滝橋動物病院グループは、都内に7つの一次診療施設と3つの高度医療センターを有し、「身近なかかりつけ医」と「先進医療」の両立で、質の高い獣医療を提供します。グループ病院内でCT検査やMRI検査を含む各種検査が実施でき、診断から治療まで迅速な対応をすることができます。



■腫瘍科専門医外来


当グループの麻酔科・画像診断科と連携し、CTなどの高次画像検査後、同日に手術を行うことも可能です。手術を希望される症例ではこちらの診察日をご案内ください。


■腫瘍内科


高次画像検査に加えて細胞診や生検などの検査、がん薬物療法などの内科的治療をメインとした相談とセカンドオピニオンに対応いたします。


■手術症例紹介


①血管周皮腫の犬の1例


犬、ウィペット、避妊雌、14歳1ヶ月。
右肩甲部の巨大な腫瘤の摘出のために来院。CT検査と腫瘤摘出手術を実施した。CT検査では明らかな転移を疑う所見は認められなかった。術後1年以上経過した現在、明らかな再発・転移もなく生存している。


摘出前腫瘤
手術直後の術創

②下顎扁平上皮癌の猫の1例


症例は猫、ベンガル、避妊雌、16歳。
自宅にて下顎に腫瘤をみとめ、増大傾向であるとして来院。CT検査と左片側下顎全摘出を実施。CT検査では明らかな転移を疑う所見は認められなかった。術後数日で自力採食可能となり退院。術後1ヶ月経った現在、経過良好。


摘出した腫瘤と下顎骨
術後2週間の術創