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専門家レポート【脳神経外科】正確な診断・治療体制を提供する当グループの脳神経外科

更新日:2025.06.11

私たち小滝橋動物病院グループでは、一般診療に加えて各専門科のチームが連携し、より高度な獣医療の提供に努めています。近年は、他院からのご紹介やセカンドオピニオンとしてのご来院も増えており、現場で得た知見や経験は、貴重な学びの機会となっています。これらを広く還元するべく、私たちは定期的に獣医療従事者の皆さまに向けた情報発信を行っております。


小滝橋動物病院グループ Case Report
News Letter vol.8

特集:
正確な診断・治療体制を提供する当グループの脳神経外科



脳神経科紹介


我々のグループでは、獣医師3名・動物看護師3名の計6名が脳神経科に所属し、診療を行っております。当科では神経筋疾患の診断を正確に行うため、超電導MRI検査装置(1.5テスラ)、脳波計(精度の高い備え付け型と、持ち運び可能でどこでも検査ができるポータブル型の2機器)、筋電図・誘発電位検査装置および集細胞遠心装置(サイトスピン)を備えており、ほとんどの脳神経・筋疾患が診断できる体制を整えております。

 

検査に際しては、事前に神経学的検査を行い病変部位を予想しつつ、最終的には飼い主様とよくご相談させていただき、実際に行う検査を決定いたします。また、ご紹介いただいた症例につきましては、飼い主様の意向だけでなく、かかりつけ獣医師のご意向も大切に考え対応させていただきます。

 

当センターでは診断+治療のみならず、診察・診断のみのご紹介も承っております。脳神経疾患でお困りの際は、ぜひ当グループ動物病院にご相談ください。


MRI:日立製作所 ECHELON Smart

脳波計
脳波検査:てんかんでは、発作間欠期にもてんかん性放電(鋭波や棘波/スパイク)が認められる


当グループの脳神経外科の取り組みについて


近年では家族の一員として飼われる動物たちが増え、獣医療においても人と同様な水準の手術が求められています。ペットの家族化に伴い獣医療技術の発展が進むなか、当グループでは2017年末にMRI装置を導入し、翌年に脳神経外科の診療を開始しました。現在は移動型X線透視撮影装置(Cアーム)や超音波手術器、手術用頭微鏡などを用いて様々な外科手術を実施しています。


当科で最も多い神経外科症例は椎間板ヘルニアであり、腹側減圧術や片側椎弓切除術、および経皮的レーザー椎間板髄核減圧術(PLDD)など様々な術式に対応しております。椎骨を破砕する際は超音波乳化吸引装置を使用し、神経組織への侵襲を最小限に抑えます。


また、多発性椎間板ヘルニアの治療方法として、椎弓切除術とPLDDを組み合わせた治療を1回の麻酔で実施することも可能です(脊髄への圧迫が重度の病変部には椎弓切除、圧迫が軽度の病変部にはPLDDを適応することにより、生体への負担を抑えながら他部位の脊髄減圧効果を得ることができます)。


環軸椎不安定症など、脊椎の不安定性を認める症例に対しては骨セメント(PMMA) による椎体固定術を実施しています。術前にCT撮影を行い、CTデータと3Dプリンターから骨模型を作成して


手術計画を立て、安全かつ正確な手術を目指します。手術中にも模型を利用することで、筋肉や軟部組織に隠れた骨の形状や角度を確認できるため、ピンニングなど関節の固定操作に役立ちます。このほか脳外科でも骨模型を作成し、脳腫瘍や急性硬膜外血腫などに対する開頭手術、および後頭骨形成不全症に対する大後頭孔拡大術などを実施しています。


当グループの脳神経外科では、動物の症状や病態に応じて侵襲性の高い高難度手術から低侵襲手術まで様々な治療を行っていますが、麻酔科やリハビリテーション科とも連携し、最善の周術期管理を心掛けています。


Cアーム

手術用顕微鏡

手術室

当グループでの脳神経外科手術実績

■ 脳外科
脳腫瘍摘出手術、後頭孔拡大術(FMD)、脳室腹腔短絡術(VPシャント)、緊急開頭脳減圧
■脊椎脊髄外科
椎間板ヘルニアに対する各種手術(片側椎号切除術[ヘミラミネクトミー、ミニへミラミネクトミー]、腹側減圧術[ベントラルスロット】、経皮的レーザー椎間板髄核減圧術[PLDD])、脊髄腫瘍摘出手術、環椎軸椎固定術、ウォブラー症候群や馬尾症候群などに対する椎体固定術
■その他
鼓室胞切開・洗浄





椎体不安定症に伴う椎間板ヘルニアに対して脊髄減圧術と椎体固定術を併用した症例


■はじめに


胸腰部椎間板ヘルニアは犬で最もよく遭遇する神経疾患です。麻連が認められる場合や内科的に疼痛のコントロールが困難な場合は通常脊髄減圧術による治療を行いますが、椎体不安定症を併発している場合には脊髄減圧術単独では神経症状の改善が得られない可能性があり、椎体固定術の併用が必要になります。


脊椎は椎間板、関節突起、靭帯、および周囲の筋肉により安定性が保たれています。先天的な関節突起形成不全などの脊椎奇形、椎間板の変性による弾性の低下などにより慢性的な不安定性が生じると、その結果として椎間板ヘルニアが生じ腹側から脊髄を圧迫します。また、黄色靭帯や関節包など軟部組織の肥厚により背側からも圧迫が生じ、脊髄を絞扼して障害が起こり麻痺などの神経症状が生じます。



■症例


犬種 柴犬
性別 
年齢 4歳0ヶ月
既往歴 なし
主訴 両後肢不全麻痺

■経過


両後肢が麻痺しているとの主訴で来院しました。3ヶ月前から左後肢の動きが悪くなり、徐々に悪化し両後肢とも動かせなくなったとのことでした。両後肢不全麻痺と胸腰椎移行部で疼痛反応が認められました。また不随意に尿が漏れる様子が認められました。


MRI検査にて第12-13胸椎間に脊髄を重度に圧迫する椎間板ヘルニアを認めました。また、T11-12胸椎間にも脊髄を軽度に圧迫する椎間板ヘルニアを認めました。第10-11胸椎間、第11-12胸椎間では、肥厚した靱帯によると思われる背側からの脊髄の圧迫を認め、椎体不安定症が疑われました(図1)。

CT検査を実施し、第10胸椎、第11胸椎、第12胸椎における左右後関節突起の形成不全を認め、椎体不安定症に伴う椎間板ヘルニアと、診断しました(図2)。


図1 T2WI正中矢状断面
椎間板の脱出と背側靱帯の肥厚による脊髄の圧迫が認められた

図2 CT画像
T10、T11、T12左右後関節突起の形成不全が認められた


■手術


第11-12胸椎間、および第12-13胸椎間にPLDD(経皮的レーザー椎間板髄核減圧術)を実施しました。その後、背側椎号切除術を実施、第10-13胸椎の椎体にスクリューを刺入し、骨セメントを用いて椎体を固定しました(図3)。

術後は当院のリハビリテーション科に通院しながらご自宅でもリハビリテーションを続けていただいており、軽度の排泄障害は残りますが、不全麻連は徐々に改善しています。


図3 手術の様子
背側椎弓切除を実施し脊髄を露出

スクリューを椎体の左右から刺入
骨セメントでスクリューを固定

経皮的レーザー椎間板髄核減圧術
補足 PLDDについて

当院では犬の椎間板ヘルニアに対して、PLDD(Percutaneous Laser Disk Decompression=経皮的レーザー椎間板髄核減圧術)の施術を行なっております。この治療はヒト医学領域では「日帰り椎間板ヘルニア手術」として確立されており、実績のある方法です。近年、安全性も含めて犬に対しても同様の治療が適応可能であることがわかり、一部の動物病院でも実施されるようになりました。
PLDDは椎間板にレーザーを照射(焼烙)することで椎間板の容積を減らし減圧をします。またレーザーの特性により、脊髄への血行促進効果や疼痛緩和効果なども期待できます。なお、本治療に適切な状態であるか否かの見極めが大変重要であるため、治療前には必ず施術者によるチェックを行います。




脊髄胸腰部領域に発生した髄膜腫の摘出手術を行った猫の1例


■症例


猫種 MIX
性別 避妊雌
年齢 11歳9ヶ月
既往歴 なし
主訴 元気食欲低下、触ると痛がる


■第1病日 検査・診断


元気食欲低下を主訴に来院されました。腹部触診に対して筋性防御が認められました。血液検査、レントゲン画像検査、腹部超音波検査では異常所見は認められませんでした。胃腸炎として対症療法を行いました。



■第5病日


「触ると痛がる」を主訴に再度来院されました。腰部圧迫時に疼痛反応が認められたため、腰部椎間板疾患として診断し、プレガバリンを処方しました。



■第23病日 神経科受信


プレガバリンにより疼痛は改善されたものの、徐々に右後肢の突っ張り、起立困難を呈していました。そのため、神経科を受診しました。神経学的検査では両後肢の浅部痛覚の消失、脊髄反射検査で上位運動ニューロン徴候(UMNs)、右後肢の不全麻痺が認められました。進行性の脊髄疾患として後日MRI撮影を行うこととしました。



■第24病日


MRI所見から髄膜腫が疑われました(図1)。飼い主様に放射線療法、化学療法、外科療法、対症療法を提示したところ外科療法を希望されました。手術までは脊髄浮腫軽減を目的とした、プレドニゾロン(1.0mg/kg SID)の投与を行いました。


図1 術前MR画像
第12-13胸椎間の髄外硬膜内右側に腫瘤(5.1mm×3.6mm×7.6mm)が認められた


■第30病日 手術


手術顕微鏡下で硬膜切開を実施。硬膜切開後、頭側端〜尾側端で脊髄との境界が明瞭な比較的腫瘤を認めました。腫瘤底部は一部癒着がありましたが、他の部位は神経鉤で容易に剥離できました。硬膜と底部に残った腫瘤性病変の一部と思われる組織も摘除しました(図2)。術後にMRI撮影を行い、十分な切除を確認し、終了としました(図3)。摘出した腫瘍は病理組織学的検査を行い、移行型髄膜腫(グレード1)と診断されました。


図2 手術の様子

図3 術後MR画像


■さいごに


本症例は術後6日目に退院し、リハビリテーション科での指導を受けました。第81日時点では右後肢の姿勢反応はやや低下したままですが、日常生活に支障はなく、1mくらいの高さもジャンプできるほどに回復しています。猫の髄膜腫は腫瘍と周囲組織との境界が比較的明瞭であることが多く、完全切除に近い状態での摘出が可能です。本症例では摘出状態は良好であったため、放射線療法などは併用せず、外科療法単独で良好な経過を辿っています。



補足 当院のリハビリテーション

リハビリテーションは、外科手術後の運動機能の早期回復や、運動機能改善によりQOL維持/向上を非侵襲的にできる治療方法です。動物たちが本来あるべき姿で家族とともに一生涯を過ごすことができるよう、リハビリテーションでサポートしています。主な内容として、手で実施する【徒手療法】(筋膜リリース、ストレッチ、神経筋促通法、感覚受容体刺激など)、身体の一部または全体を動かす【運動療法】(水中トレッドミルでの水中歩行訓練、陸上でのバランス運動など)、物理的なエネルギーを利用する【物理療法】が挙げられます。術後ケアとして、疼痛緩和、拘縮抑制、術創治癒促進などの目的で近赤外線治療も行っています。また、退院後に回復が乏しい場合や患肢を庇う場合は、徒手療法と組み合わせて物理療法を実施することもあります。他にも半導体レーザー機を用いた治療法などがあります。当院ではリハビリテーション科と連携し、術後の早期回復を目指した治療・指導を行っております。