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2026.02.01

専門家レポート【透析科】急性腎障害と血液透析

私たち小滝橋動物病院グループでは、一般診療に加えて各専門科のチームが連携し、より高度な獣医療の提供に努めています。近年は、他院からのご紹介やセカンドオピニオンとしてのご来院も増えており、現場で得た知見や経験は、貴重な学びの機会となっています。これらを広く還元するべく、私たちは定期的に獣医療従事者の皆さまに向けた情報発信を行っております。

 

 

小滝橋動物病院グループ Case Report
News Letter vol.1

急性腎障害と血液透析

~数命率0%を救う選択肢~


 

急性腎障害

急性腎障害は数時間から数日の間に起きる急激な腎機能低下(GFR低下)により、体液の恒常性維持機構が破綻し、高窒素血症、水・電解質異常、酸塩基平衡異常などをきたす病態です。
原因により腎前性、腎性、腎後性に分類されます。
急性腎障害は虚血性尿細管壊死を引き起こした場合を除き可逆的な変化ですので、回復する可能性はありますが、血液透析を実施できる人医療でも生存率は50%と、決して高い数値ではありません。

 

 

▲図1.AKIの原因


▷ 腎前性:輸液療法により腎血流量、血圧の正常化を図ります。
▷ 腎性:原因薬剤・物質の除去、原因病態の治療を行います。
▷ 腎後性:速やかな尿路の確保と閉塞の解除を行います。


いずれの原因によっても共通の事項が原因の除去と全身状態の管理となります。全身状態の管理としては、栄養管理、水や電解質管理を中心とした保存療法がメインとなります。
腎前性、腎後性は一般的には原因疾患の除去と適切な治療を行うと速やかに腎機能は回復しますが、障害が長期間に及ぶとGFRの低下をきたし、腎性の急性腎障害へと進行します。どの病態にせよ速やかに治療を行わなくてはなりません。


 

血液透析とは

血液透析は体外循環を使用した血液の浄化を目的とした治療方法です。カテーテルから脱血した血は、回路を通ってダイアライザーという装置に入り、そこで浄化し返血するというものです。

 

 

▲図2.血液透析の原理


一般的な治療に反応しない症例は血液透析の適応となります。具体的には過剰水和、治療抵抗性の高カリウム結症や代謝性アシドーシス、重度の尿毒症症状などが認められる場合に血液透析を選択します。

血液透析による治療は腎機能が回復するまでの間、体の恒常性を保つことが目的となります。どれくらいの期間で回復するかは症例のベースの腎機能、障害の原因や程度によって様々です。


 

 

AE Eatroff et al. J Am Vet Med Assoc 241 (11), 1471-1478. 2012 Dec 01.
▲図3.血液透析を行った患者の原因と生存率


獣医療でも血液透析を行なった急性腎障害の症例の生存率の報告があり、およそ50%の症例が退院でき、30日生存できた症例の80%は1年以上の生存期間が得られるという結果でした。


 

 

■症例紹介


犬種 柴大


性別 未避妊雌


年齢 1歳11ヶ月


水溶性下痢、血便を主訴に紹介病院を受診しました。
入院下にて対症療法を実施し、消化器症状は改善しました。しかし入院中排尿を認めなかったため、血液検査を行なったところ、腎パネルの上昇、重度高カリウム血症が確認され、当院に紹介来院しました。


■当院での血液検査所見

各種検査にて原因不明の急性腎障害と判断しました。
紹介元の病院で点滴治療を受けていながら排尿がないこと、重度の高カリウム血症が認められることから血液透析の適応と判断し、紹介来院当日に全身麻酔下にて中心静脈カテーテルを設置し、血液透析を行いました。

 

■症例の腎数値の推移

第3~13病日に合計7回血液透析を行いました(表4)。
第17病日を境に、点滴治療のみで腎数値の改善が認められました。そのため血液透析が必要な急性期を乗り越えたと判断し、第21病日に中心静脈カテーテルを抜去しました。
 

 
急性腎障害により低下した腎機能は数週間から数ヶ月、場合によっては数年という単位で回復していきます。
この症例も1年以上かけて徐々に腎数値は改善していきました。

急性腎障害には特効薬が存在せず、間違った治療を行うとかえって症例の状態の悪化を招いてしまう危険性のある複雑な疾患です。治療内容や方針で不安な点があれば当院にご相談ください。


 

特別コラム
上手につきあっていくネコの特発性膀胱炎
FLUTDの原因で最も多いのは FIC

▲ Journal of Feline Medicine and Surgery 15(12) 1086-1097

 

ネコの下部尿路疾患(FLUTD)の原因の中で一番多くを占めているのが特発性膀脱炎(FIC)です。発症要因はストレス、飲水不足によって尿が濃くなることが関連していると言われています。


 

・血尿、頻尿,排尿因難の原因として最も多い疾患
・明確な原因は不明
・ストレス,尿が濃いことが発症要因と言われている
・慢性化,悪化すると尿路閉塞の原因になることも


 

FICを正しく診断するために
FICを発症するネコはいくつかの特徴があり、性格が神経質、怖がりまたは攻撃的であったり自分が置かれている環境に対して過剰反応がみられたり、さらには飼い主との関係性に問題がある場合が多いと考えられています。

FICを正しく診断するためには、生活環境や家庭環境といった詳細な問診が必要であり、飼い主との密なコミュニケーションが重要です。この詳細な問診が実施できれば、より正確なFICの診断を下すことはもちろん、診断後の治療方針が明確になり治療が奏功する可能性も高まります。


 

ストレス要因を探る
普段生活する環境の中で、ネコを取り巻く様々なストレス要因を把握することは治療のプランを考える上で重要です。

 
近年、新型コロナウイルスが流行してからネコちゃんの頻尿・血尿での来院が増えた印象があります。頻尿・血尿のネコちゃんの飼い主様にお話をよく伺うと、昨年から続くコロナ禍の影響で、飼い主さん自身がリモートワークで自宅にいる時間が増えた、リモートワークになってから症状が出ている気がする、というケースが非常に多いと感じております。

飼い主の行動、予定の変化がネコにとってストレスの原因となることからこういった飼い主自身のライフスタイルの変化も、我々獣医師はコミュニケーションを深めて詳細に問診しなければなりません。


 

FICとのつきあい方
FICの治療目標は臨床症状の軽減、再発回数を減らすことです。
そのためには、

・飲水量を増やす工夫をすること

新鮮な水を用意する/水飲み場を増やす/ウエットフードを利用する

・多面的な環境改善に努めること

この二つが非常に重要であると考えております。


 

環境改善のまず第一歩はトイレの問題を改善することです。詳細な問診を行なっていくと、環境ストレスだけでなくトイレに問題がある場合も非常に多いです。飼い主にはネコが好むトイレを意識していただくようにします。


 

トイレ以外の部分でもネコにとって快適で健康的な環境を満たすために工夫できるポイントはいくつかあります。
普段生活する環境の中で、ネコを取り巻く様々なストレス要因を把握することは治療プランを考える上で重要です。


 

また、抗菌薬や止血剤、鎮痛を目的として投与するNSAIDsはFICの症状に対して効果がないことがわかっています。FICに対する排尿痛に関してはブプレノルフィンやブトルファノールといったオピオイド系の鎮痛剤を用いることが望ましいでしょう。

FICは様々な要因が複合して発症すると考えられており、飼い主が考えるストレスとネコにとってのストレスが違うこともあるため、ネコのためにと思ってやっていたことが悪化要因であるケースも様々です。

FICとうまくつきあっていくためには水分摂取と多面的な環境改善が治療のメインであり、飼い主とこの病気を理解し、共に協力していくことが重要と考えています。